おじさんの嘆き1

125.jpg


西荻窪、神明通りに「大判」という
おいしいおせんべい屋さんがある。
行くたびに「あー、とうとうつぶれたか!」
と思うのだが、あにはからんや!
やっているのだ。ほっ。
それくらい飾り気のない、人に説明しても
「そんなのあった?」と言われる店。
私も食いしん坊仲間の編集者さんに
教えてもらわなければ知らなかった。
以前おばさんに、いつからある店なのか
聞いたら、私がこの近所から引っ越して以降に
開店したらしい。とは思えぬほど年季が入っていて
創業100年ぐらいな趣なのだ。

さて、先日も、噂の文房具屋の帰りに
まだあるかなあ・・・と行ってみた。
店先のワゴンが空なので
「あー、やはりもう・・」と思ったら
中のワゴンにいくつかおせんべいの袋があるようなので
ガラガラガラ、と引き戸をあけた。

大抵おばさんなのだが、その日は珍しく
おじさんだった。この人こそが炭火で一枚一枚
丁寧にせんべいを焼いている名人である。

買うと小袋のおせんべいをおまけにくれるのだけど
昨日は「あ、そうだ」といたずらっ子のような顔をして
「ちょっと待ってな。よいしょっ」と椅子の上に上がり、
「あちっ」とか言いながら、一面、海苔に巻かれたおせんべいの
網ごと差し出し、「取って」と言った。
まだほんのり温かいおせんべいは、海苔がぱりっとしていて
おいしい。
「わかる? エビの味がするでしょ?」
(おじさん、私が甲殻類のアレルギーじゃなくてよかったよね)
「注文があって、作ったの。今年、桜エビが高くってさあ
驚いた。なんでだろ? 1万円だよ!」
「え・・・量は?」
「1キロ」

醤油味のお煎餅は、あとからふわっとエビの香りがする。
桜エビがこんなに高くちゃ作れないという。
日本産ではないものでも作ってみたが、茹であがった
香りがしないから、やはり国産の桜エビを買うことにしたが
そこらでも「こーんなにちょっとで300円」だよ、と
何故かニコニコしながら話すのだ。

124.jpg

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

もとしたいづみ

Author:もとしたいづみ
絵本・童話作家やってます。
エッセイ集『レモンパイはメレンゲの彼方へ』(集英社)
幼年童話『うめちゃんとたらこちゃん』絵・田中六大(講談社)
絵本『せつぶんセブン』絵・ふくだいわお(世界文化社)など

ツイッターは
もとしたいづみ
(@motoshita123)

最新記事
検索フォーム