そのすじのひとたち

そしてホワイトデーの翌日、
近所の昭和な喫茶店で。

原稿を持って仕事する気満々で入ったのだが
一日やっているモーニングセットを注文する。

大きな声が聞こえるので、声のする方を見ると
お、一目でそれとわかるそのすじの方々。

今喋っているのはニット帽の後ろ姿しか見えない
大柄の男で、要するに毛が立っちゃうから
こうして帽子をかぶっているんだということを
もたもたと不自由に大声で話している。
声の調節がきかない感じだ。
その男の向かい側には声の甲高い飯田蝶子を男にしたような
親分っぽい年かさの男。
その隣にはオールバックで薄い色のサングラスの
それもパンダっぽい垂れ目の形の懐かしいタイプのをかけていて
黒っぽいスーツに白っぽいスカーフをだらりと垂らして
もう絵に描いたような、ヤクザその1みたいな男。

敬語を使ったり、ため語だったりが
顕著なので、上下関係がわかりやすく
しかもその1の男はお店の人には
ちょっと息の量を増やしてかすれさせ、
やわらかく調節した半音上げた声で
「ぁ、すみません」
とか、コーヒーのおかわりは? と聞かれたら
「おねがいします。はい」
と、話し方も声も変えて、見事だ。

「おまえは幸せ者だよ」
という声が聞こえたので、耳を澄ますと
「昨日、ホワイトデーだっただろ?
だったんですよ(たぶん飯田蝶子に)。でさ、喫茶店入って
ホワイトデーってほら、キャンデーだろ?
(え、そうだっけ? と私は心の中で思う)
キャンデーが置いてあってさ。
それ、見るんだよ。だけど俺は知らんぷり。
はははは」
なんてかわいい会話が聞こえる。
オールディーズが流れる店内が
さらにものすごく昭和な空気になる。

そしてどうやら飯田蝶子の男版は女性らしいことが判明。

「じゃ、あたしは失礼するよ」
と立ち上がると、はじかれたように立ち上がる二人。
「ご馳走様です!」と最敬礼だ。
モーニングを食べていたからひとり500円ぐらいだと思う。
ニット帽は一緒に立って行った。

レジから飯田蝶子が「百円!」と呼んだ。
「え? あ、百円?」
見送った男が立ち上がる。
「百円持ってないかいって言ってんだよ」
立ち上がったまま腰を曲げてぺこぺこしながら
「もってますけど、帰りの電車賃が・・・あははは。
はい、百円」と走って届ける。

というわけで全然仕事にならず、
そうこうしているうちに、おばばたちの団体がやってきたので
真っ白な原稿用紙を持って店を出た。

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プロフィール

もとしたいづみ

Author:もとしたいづみ
絵本・童話作家やってます。
エッセイ集『レモンパイはメレンゲの彼方へ』(集英社)
幼年童話『うめちゃんとたらこちゃん』絵・田中六大(講談社)
絵本『せつぶんセブン』絵・ふくだいわお(世界文化社)など

ツイッターは
もとしたいづみ
(@motoshita123)

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