間に合わない

市居みかちゃんがベビーカーを押してやってきた。
「いっちゃーん!」
他にもベビーカーに子どもを乗せた女性が次々やってくる。
どうやらこれは母と乳幼児の催しらしい。
私にはもう小さい子はいないけれど
行きがかり上、参加したイベント。
が思いのほか長引き、腕時計を見ると、

は!! もう6時半だ。

7時からの開演に間に合うだろうか!
出演するというのに。
とにかく近くだけど急いでタクシーに乗らなくては。
場所はどこだっけ? 帯広市民文化会館・・・ホール?
いや! 衣装だ。
1回目の公演を終えて、衣装を仕舞った記憶がある。
まずホテルにそれを取りに戻らなくちゃ。
それにしても何時に行くはずだったんだっけ?
携帯を見ると友達から「5時に入っていればいいみたい」
とメールが来ている。
あーそうだよなー。7時開演だもの。
間に合うんだろうか。
タクシーなんか走ってないじゃないか。

ドキドキして目が覚めた。

そうだよ、もう終わったんだ。
「間に合わない!」と焦る夢、久しぶりに見たなあ。
暑かったからだろうか?
あの日、本当に集合時間を勘違いして遅れたから?

150727_1824~01

7月3日、帯広で合唱のステージに立った。
高校時代、合唱部の顧問だった加藤静一先生が亡くなって1年。
先生が顧問をしていた頃の合唱部員が集まって歌う。
そんな追悼演奏会があることを知り、38年ぶりだかに
帯広に行った。練習には3回通った。
帯広の居心地いい空気や、合唱の楽しさを
思い出すことができた。

私は2年の5月に転校したので、ほとんど1年しか在籍していないのだけど
大好きな「水のいのち」を歌うというので「出る!」と即答した。
参加者は40~60代だったのかな?
さすがに高校時代とは違い、みなさん
声が出ないだの息が続かないだの
足が痛いだの立っていられるかだの
不安材料は豊富だったが
楽屋では本番が近付くにつれて
おばさんたちがどんどん高校生に戻っていった。

「さ、本番だ」
「もう終わっちゃうんだねー」
「寂しいな」
高校生の口調になっている。
「あーあ、これが練習ならいいのになっ」
今の、あのおばさんが言ったよね、と
ちらっと顔を見た。

「さ、出番だ・・・」
みんなしずしずとステージ横に向かった。
でも笑い声が漏れる。
「しー!」
そうそう、気分が高ぶって声が大きくなる後輩を
先輩は必ず振り返って窘めたものだ。
「声、響くから、静かに!」

水のいのち、大地讃頌、緑の森よ、
そして遙かな友にと共に緞帳が下りていく。

すすり泣きが響く中、みんな一斉に笑顔になる。
「終わったー」「ありがとうございました」
「楽しかったね」
「あー、もう歌えないのねえ」
そんな声を気持ちよく聞きながら、私は楽屋に戻った。

加藤先生と、引っ越しばかりで行方不明になっていた私を
偶然発見してくれた友人に感謝です。

そんなことがあった7月が終わろうとしている。
もう8月か。早いなあ。
今日はきれいな満月だ。

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プロフィール

もとしたいづみ

Author:もとしたいづみ
絵本・童話作家やってます。
エッセイ集『レモンパイはメレンゲの彼方へ』(集英社)
幼年童話『うめちゃんとたらこちゃん』絵・田中六大(講談社)
絵本『せつぶんセブン』絵・ふくだいわお(世界文化社)など

ツイッターは
もとしたいづみ
(@motoshita123)

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